ロサンゼルスでの旅の一幕
10年以上前、ロサンゼルスをレンタカーで旅していたときのことだ。
その途中、サンタモニカにあるキッチン付きのモーテルに宿泊した。
近所のスーパーで食材を買って、帰る途中、信号待ちをしていた場面が今でも鮮明に思い出せる。
私の向かい側には、スーツ姿のサラリーマン風の男性。
両手にスーパーのビニール袋を下げた黒人のおばちゃん。
それと、20代くらいの若い女性。
私の側には、革のベストにダメージジーンズ、鼻ピアスと、見るからにヘヴィメタルな雰囲気のお兄さんがいた。
さらに、白人のおばちゃんと若い女性、そして私。
赤信号で並ぶ7人
全部で7人。見知らぬ者同士が、赤信号の前で並んで立っていた。
向かう先の建物は外壁工事中で、鉄パイプの足場が組まれていた。
やがて信号が青に変わり、私たちは一斉に横断歩道を渡り始めた。
そのときだった。
電動車イスのおじいさんのアクシデント
「ゴツン」という鈍い音がして、皆が一斉に音の方に目をやった。
足場のパイプに、電動車イスのおじいさんが引っかかったのだ。
次の瞬間だった。
私の隣にいた、あの鼻ピアスのヘヴィメタお兄さんが全力ダッシュ。
向こう側にいた3人も、全員振り返って全力ダッシュ。
私の側にいた白人のおばちゃんと若い女性も全力ダッシュ。
気がつけば、私以外の6人全員が動いていた。
おじいさんの車イスをヘヴィメタのお兄さんが少し持ち上げただけで、ことなきを得た。
誰かが助けを呼ぶまでもなく、瞬時に6人が動いていたことに私は驚き、そして立ち尽くしていた。
何もできなかった。何もしなかった。
私はただ、その光景をぼんやり眺めていただけだった。
今でもそのときのことを思い出すと、自分のふがいなさに涙が出てくる。
文化の違いを考える
日本なら、2~3人が駆け寄って、あとは「邪魔になるから」と静観するそんな場面を何度か見てきた。だが、あのとき私が見たのは、全員が「自分ごと」として動いた瞬間だった。
教育の違いなのだろうか、文化の差なのだろうか。
帰国後、私は「次は自分も動ける人間になろう」と心に決めた。
けれど、あれから10年以上が経った今、私はあのときの6人のように動けているだろうか?
自問すると、胸の奥が少し痛む。