柿は日本生まれ?スペインで“Kaki”として売られる不思議

食・雑談

秋になると、スーパーの果物コーナーにオレンジ色の柿が並ぶ。甘くて、少し固めのもの、トロッと熟したもの、色や形の違いに思わず目を奪われる。手に取ると、なめらかな皮の感触、ほんのりした香り、そして目に入る鮮やかな色彩に、季節の到来を実感する。しかし、ふと疑問が浮かぶ。「柿って、そもそも日本の果物なのだろうか?」

実は柿のルーツは東アジア全体に広がっている。中国の古文献にも古くから登場し、庭先や山間で自生していたという記録がある。日本にも奈良時代にはすでに存在しており、平安時代の宮中や貴族の庭園で愛されていたと伝えられる。和歌や絵巻物にも描かれ、季節の象徴として親しまれた歴史がある。だが、私たちが普段食べている甘柿は、日本人によって改良されたものだ。渋柿の渋みを抜き、食べやすくしたこの知恵は、日本独自の果物文化の象徴といえる。

面白いのは、この日本生まれの甘柿が、今では世界で当たり前のように流通していることだ。特にスペインでは、スーパーで普通に「Kaki(カキ)」として売られている。発音もほぼ日本語のまま、形も日本の柿にそっくりで、味も甘く硬めである。バレンシア州を中心に栽培され、特別な渋抜き技術で硬いまま食べられる品種は「ロジョ・ブリリャンテ」と呼ばれ、地域のブランドとして確立している。さらに“Kaki Persimon”としてヨーロッパやアメリカにも輸出され、国境を越えて愛される果物となった。つまり、日本で生まれた柿の文化は、海を渡り、再び世界で花開いているのである。

日本では、熟してトロトロになった柿を好む人もいれば、硬めでサクサクとした食感を楽しむ人もいる。地域や家庭によって好みは分かれるが、スペインでは断然、硬くて甘い“Kaki”が主流だ。文化や気候によって、同じ果物の楽しみ方が微妙に変わるのも面白い。さらに現地では、サラダやヨーグルトに加えたり、チーズと合わせて前菜にしたりする食べ方も一般的で、日本とはまた違った味覚の世界が広がっている。

秋の夕暮れ、オレンジ色に色づいた柿を手に取りながら、つい想像してしまう。遥か昔の中国の庭先で、風に揺れる柿の木を眺める人々。平安の貴族が、秋の宴で柿を楽しむ姿。そして、現代の日本やスペインで、同じ果物に舌鼓を打つ人々。日常にありふれた果物のひとつに、これほど豊かな物語が隠れていたとは、改めて驚かされる。

手にした柿の色や香り、口に含んだ瞬間の甘みを楽しみながら、私は思う。季節の移ろいを伝え、文化や国を越えて愛される果物は、ただの食べ物以上の価値を持っているのだと。秋の夜、オレンジ色に輝く柿を前に、そんな雑学に思いを馳せる時間は、静かだが確かに心を豊かにしてくれる。

最初の一口だけ、天才的にうまいやつ──でも、最後まで食べられるか?

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