十三夜の月に思う:樋口一葉と秋の静けさ

季節の気づき

秋の夜長、空には十三夜の月が静かに浮かぶ。

十五夜ほど華やかではないが、その淡い光にはどこか物悲しさが漂う。昔の人はこの月を「後の月」と呼び、十五夜と合わせて楽しむのが習わしだったという。片方だけを見ると「片見月」といって縁起が悪いとされていたことを、ふと思い出す。

この十三夜を題材に、明治の文豪 樋口一葉 は短編『十三夜』を残している。

作品の中では、月の光が主人公の心の揺れや孤独を映す鏡のように描かれ、秋の夜の静けさや物思いの深さを、自然と心理が交錯する形で表現している。

ただの月の描写が、読者に季節の香りや色を想像させる力を持っているのは、文学の面白さでもある。

日本の十三夜は、栗や枝豆など秋の収穫物を供えながら楽しむのが一般的だ。十五夜よりも少なめの月見団子を並べ、静かに月を眺める。

現代の私たちも、スマホやテレビで忙しい日常を送る中、ふと立ち止まり、窓から差し込む月光を見上げるだけで、自然と心が落ち着くのを感じることがある。

十五夜と十三夜、二度の月見は単なる風習ではなく、自然と人間の心をつなぐ時間なのだろう。

樋口一葉が描いた十三夜の情景を思い浮かべながら、秋の夜にそっと耳を澄ませてみる。虫の声や風の匂い、そして月の光に包まれるひととき。

そんな小さな季節の味わいが、日々の暮らしをほんの少しだけ豊かにしてくれる気がする。

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