虫の声も次第に遠のき、九月も半ばを過ぎれば、野営の夜は殊のほか快くなる。
朝、帳を払うと、空気はすでに冷ややかにして、胸いっぱいに吸い込めば自然の香が沁み渡る。かつての夏の騒々しさは影をひそめ、耳に入るのはただ木の葉の擦れ合う音と、遠き小川の細やかな調べのみである。
日中、身を動かして汗を流したのち、焚き火の傍らに腰をおろし、湯気の立つ器を掌に受ける。そのとき響く火のはぜる音、落葉を踏みしめる乾いた音、そして西日がやわらかに差し込む様は、秋ならではの閑雅な趣を醸す。
食卓もまた野趣に富む。銀紙に包みて焚き火に投じた薩摩芋は、香ばしく、幼き日の情景を呼び覚ます。串に刺した野菜を炙れば、素朴にして滋味深し。川の水に掌をひたせば、冷たさは心地よく、夏の喧騒とは別なる静けさを与えてくれる。
やがて夜は澄みわたり、虫の声も絶えがちに、天空には星々がひときわ鮮やかに瞬く。自然の音と光に身をゆだねるとき、心はおのずと解きほぐされる。秋の野営は、実に贅沢なる安らぎの時である。
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