台風の来る夜は、いまだに子どもの頃の停電を思い起こす。
風は家を揺らし、雨は窓を激しく叩く。
家は暗闇に包まれ、ろうそくの小さな光のみが部屋を照らす。
壁には揺れる影が踊り、冷蔵庫を開けぬよう叱られながら過ごす夜は、小供頃の私にとって一大イベントであった。
木造住宅であった我が家の窓に板を打ち付け、雨戸を取りつける父の姿を思い出す。
非日常のワクワクと、少しの恐怖が混ざり合う特別な時間であったのだ。
懐中電灯の明かりを頼りに本を読もうとしても、文字は揺れ、読むこともままならない。
家族との小声の会話、ろうそくの火の揺らぎ、窓越しに見える雨粒。
すべてが、子ども心に小さな冒険を刻むのだ。
今は停電も稀である。
便利になった代わりに、あの暗闇の特別な時間は、もう味わうことができない。
だが台風の音を聞くたび、あのワクワクと少しの緊張感を思い出すのだ。
暗闇で過ごした夜の記憶は、自然の力を肌で感じる貴重な体験であり、日常のありがたさを静かに教えてくれるのである。
台風の夜に経験した停電の時間は、子ども時代の小さな冒険であった。
暗闇に包まれ、ろうそくの光のみを頼りに過ごした夜を思い返すと、自然の力と日常の尊さを改めて感じることができるのだ。
だから台風の音は、ただの恐怖にあらず、懐かしさと感謝を運ぶものである。
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