駅前の交番に立つ警察官。腰には拳銃。
自衛隊の訓練風景。迷彩服に銃器。
私たちの暮らしの中には、銃を持った人がいる。
でも、熊が出ても撃たない。撃てない。
それって、ちょっと不思議じゃない?
今回はそんな素朴な疑問から、制度と暮らしの“見えない境界線”を見てみたい。
銃を持っているのに撃てない?
ニュースで「熊が出没」「猟友会が駆除」と聞くたびに、ふと思う。
「警察や自衛隊って銃を持ってるのに、なんで撃たないの?」
実際、住宅街や学校の近くに熊が現れても、出動するのは地元の猟友会。
警察や自衛隊は現場にいても、熊を撃つことはない。
それはなぜか。
答えは、制度にある。
警察の銃使用ルール
警察官が拳銃を使えるのは、基本的に「人間に対して命の危険がある場合」に限られている。
熊が相手であっても、「人命に直接かかわる緊急性」がない限り、発砲はできない。
たとえば、熊が逃げようとしている場合や、人に襲いかかっていない場合は撃てない。
万が一、流れ弾で人に当たれば大問題になる。
そのため、熊の駆除は警察の任務外とされている。
もちろん、現場で住民の避難誘導や道路封鎖などは行う。
だが実際に熊を「仕留める」役目は、別の手に委ねられているのだ。
自衛隊の武器使用制限
では、自衛隊はどうか。
自衛隊が組織として動くには、「防衛出動」や「災害派遣」など、明確な根拠が必要だ。
熊が出た程度では、国の防衛にも災害にもあたらない。
したがって、自衛隊が銃を持って駆除に出ることは法律上できない。
2025年には秋田県が自衛隊に支援を要請したというニュースもあった。
だがこれは、銃を持って熊を撃つためではなく、箱わなの設置や駆除後の処理など、後方支援を目的としたもの。
つまり、「出動=撃つ」ではないのだ。
撃てるのは誰?猟友会の仕組み
実際に熊を撃っているのは、猟友会(りょうゆうかい)と呼ばれる民間のハンターたちだ。
彼らは狩猟免許を持ち、自治体から正式に依頼を受けて、有害鳥獣の駆除を行っている。
つまり、熊の駆除は「行政の委託業務」であり、法的に認められた民間の仕事なのだ。
ただし、その実態はかなり厳しい。
報酬はわずか、しかも危険と隣り合わせ。
銃を持って山に入るのは、ほとんどが60代、70代のベテラン猟師だという。
若手が少なく、「後継ぎがいない」と嘆く声も多い。
ニュースで“猟友会が駆除”と聞くと頼もしく感じるが、
実際には地域のボランティア精神によって支えられているのが現状である。
暮らしの中の“制度的矛盾”
こうして見ると、ちょっと不思議な構図が浮かび上がる。
• 銃を持っている警察や自衛隊は撃てない
• 銃を持っていないように見える民間の高齢者が撃っている
これは、安全のための制度なのか、責任回避のための構造なのか。
あるいは、制度疲労の表れなのか。
「持っているのに使えない」
「使えるのに支援が少ない」
そんな“制度的な矛盾”が、私たちの暮らしの中に静かに存在している。
