世に知られる「ノーベル賞」。
だが、その源泉が何であったかを考えると、実に皮肉である。
アルフレッド・ノーベルは、1867年にダイナマイトを発明した。
その爆薬は鉱山や土木工事に役立つ一方、戦場では破壊の道具ともなった。
彼は巨万の富を築いたが、世間からは「死の商人」とも呼ばれた。
転機は1888年。兄の死をきっかけに、新聞が誤って「ノーベル死す」と報じた。
そこには「死の商人、死す」と冷酷な見出しが踊っていた。
自らの人生が破壊の象徴として記憶されることを知り、ノーベルは深い衝撃を受ける。
その葛藤の末に生まれたのが、遺言による決断である。
巨額の遺産を基金とし、人類に最大の貢献をした者へ与える賞を設けた。
こうして物理学、化学、医学、文学、そして平和の各分野に「ノーベル賞」が生まれたのである。
「破壊」と「貢献」。
「死の商人」と「平和の象徴」。
矛盾の中から生まれたこの仕組みは、今も世界で最も権威ある賞として続いている。
人は矛盾を抱えるからこそ、新しい価値を生み出せるのかもしれぬ。

