ちりん──それだけで、涼しくなる
風鈴の音には、なぜあれほど「涼しさ」を感じるのだろうか。
風が吹いて、ガラスが触れ合い、ちりん──と鳴る。
あの一音で、たとえ室温は変わらずとも、心がすっと落ち着いていく。、
けれど、風鈴というもの。
そもそもは「涼しさ」よりも「魔除け」の道具だったという。
その音は、もともと“結界”だった
起源は中国の仏教寺院にさかのぼる。
堂宇の四隅に吊るされた「風鐸(ふうたく)」が原型だ。
これは、風を受けて音を鳴らすことで、邪気を祓い、福を呼ぶとされていた。
いわば、あの音は結界のような役割を担っていたのである。
やがてそれが日本にも伝わり、江戸の町ではガラス細工の風鈴が庶民の間で人気を集めた。
中には、音の「響き」にこだわって、鳴らし比べをして選ぶ者もいたという。
今のようにエアコンも冷蔵庫もない時代。
耳から涼を取るというのは、まさに風情と知恵の合作だったのだろう。
今はもう、誰のために鳴っているのか
もっとも、現代の風鈴はもはや魔除けでもなければ、暑さ対策でもない。
それでも、あの「音」は、なぜか心の奥に染み入ってくる。
おそらく私たちは、無意識のうちに「音に守られている」と感じているのかもしれない。
夏になると鳴り始め、秋の風とともに静かにその役目を終える風鈴。
それは、目には見えない何かと、そっと向き合う時間を教えてくれる。
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