車内で蘇ったグラムロックの記憶
車のエンジンをかけ、ふとラジオのスイッチを入れたときだった。
流れてきたのは、T・Rexの「Get It On」。
ああ、このイントロ、このグルーヴ感。
一気に空気が70年代のイギリスへ引き戻されるような、不思議な感覚だった。
この曲を初めて聴いたのはいつだったろう。
いや、きっと誰でも一度はどこかで耳にしたことがあるはずだ。
それほどに、この音は今もなお色褪せず、生きている。
グラムロックという自由なスタイル
「グラムロック」という言葉をご存じだろうか。
1970年代、イギリスで生まれた音楽ジャンルのひとつである。
glamとはglamorousの略、つまり「華やか」や「魅惑的」といった意味を持つ。
その名の通り、当時のアーティストたちは中性的で派手な衣装やメイクをまとい、見た目でも強いインパクトを残した。
日本で言えば、90年代のビジュアル系バンドの先駆けとも言えるかもしれない。
音楽的には、明確な型があるわけではなかった。
それぞれが独自のスタイルで、自分だけのサウンドを作り出していた。
要するに、「この見た目で、この音ならグラムロック」──そんな、どこか自由なジャンルだったのだ。
名を挙げるなら、デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、ブライアン・フェリー……
けれど、私にとってグラムロックの象徴はやはりマーク・ボランだ。
彼の作る音には、どこかやんちゃで、どこか繊細な光が宿っている。
車の中で偶然流れてきたこの1曲が、昔の記憶をやわらかく揺らしたのは、きっとその光のせいだ。
ふとした瞬間、音楽は時間を越えてやってくる。
ラジオのスイッチひとつで、記憶の奥にしまっていた何かがそっと顔を出す。
グラムロックを知らなくても構わない。
ただ一度、「Get It On」を聴いてみてほしい。
今の耳にも、きっと心地よく響くはずだから。